質権とは?担保物権、抵当権との違い[兵庫県伊丹市]
2024/08/13
こんにちは、アークエステートです!
本日のテーマは「質権」について。質権とは、住宅ローンの抵当権と同じく担保物権の一種です。返済が滞った際、担保の処分で債権を回収する権利のことを指します。質権は目的物によって3種類に分類され、権利の実行方法も異なります。
この記事では、質権と担保物権・抵当権の違いや、質権の種類、住宅ローン借入時の火災保険の質権設定などについて解説します。
1:質権とは?担保物権についても解説
はじめに、質権の理解を深めるために、担保物権を含めた質権の基本情報を紹介します。
①質権とは?
質権とは、債権の担保として債務者(金銭を借りた方)や第三者から受け取った目的物を債務が弁済されるまで占有し、債務不履行があったときにその目的物を処分して債権を回収する権利のことです。
「質屋が物を預かる代わりに金銭を貸し出し、返済がなかったときに物を売却して返済に充てること」と同様であると考えると、イメージしやすいかもしれません。
質権を含む担保物権には、債務の弁済を間接的に強制する働きをもつ留置的効力や、優先弁済的効力があります。質権は、以下の2つの効力を併せ持つ唯一の担保物権です。
効力 | 概要 |
留置的効力 | 担保物権者が、担保物権の目的物を自ら占有できる効力 |
優先弁済的効力 | 債権が弁済されない場合、目的物を換価した売却代金から、ほかの債権者より優先的に弁済を受けられる効力 |
優先弁済的効力の「優先」とは、債務者に第三者が金銭を貸し付けている場合でも、質権者(金銭を貸した方)が優先して債権を回収できることを意味します。
ただし、留置的効力と優先弁済的効力は、すべての担保物権に認められるものではありません。
②質権と担保物権の違い
担保物権とは、債務者に債務の返済を促すため、債務者が所有する物の価値を利用する権利のことです。
そもそも担保とは、債務の返済が滞ったときに備え、債務者が債権者に差し入れる経済的価値のある物を指します。そして、債務不履行が起きたときに、質権者が担保から優先的に債権を回収できる権利を「担保物権」といいます。
なお、担保物権には、法定担保物権と約定担保物権があり、質権は約定担保物権に該当します。
担保物権の種類 | 概要 |
約定担保物権 | 当事者間の合意や契約で成立する担保物権のこと。 質権はこちらに該当する。 |
法定担保物権 | 法律の規定に基づく担保物権のこと。 |
つまり、質権は担保物権の一種ということです。
③担保物権の4つの性質
質権で認められる担保物権の4つの性質は、以下のとおりです。
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それぞれ見ていきましょう。
《付従性》
付従性(ふじゅうせい)とは、担保物権が債権に付従するという性質のことです。つまり、債権(債務の履行を相手方に請求する権利)が不成立であれば、担保物権も存在しない、ということになります。
そもそも担保物権の目的は債権の回収にあり、被担保債権(借りた金銭)が存在することで、はじめて担保物権が成立します。つまり、借入れを完済して債務が消滅すると、担保物権も同時に消滅します。
《随伴性》
随伴性(ずいはんせい)とは、第三者に被担保債権が移転した場合、担保物権も一緒に移転するという性質のことです。担保物権の目的物が第三者に譲渡された場合、債権も第三者に移ります。
なお、随伴性は付従性と似ていますが、随伴性は習慣的な側面や人的な側面の性質、付従性は客観的な側面や物的な側面の性質という違いがあります。
《不可分性》
不可分性(ふかぶんせい)とは、担保物権と被担保債権(担保の対象となる債権)は分けることができず、一体であるという性質のことです。
被担保債権がすべて弁済されるまでは、担保物権の目的物の全体に効力がおよぶことを指します。つまり、被担保債権の一部を弁済したとしても、目的物の一部が担保物権から外れることはありません。
《物上代位性》
物上代位性(ぶつじょうだいいせい)とは、目的物が売却や破損、消滅などで役割を果たせない場合、経済的価値のある代わりの物を目的物とする性質のことです。
物上代位性と関係が深いのは、「不動産の抵当権」です。
例えば、抵当権が設定された不動産が火事で焼失した場合、火災保険の保険金で債権を回収することが可能です。また、抵当権がある不動産を第三者に売却したとしても、抵当権は売却代金に対しての効力を有します。
つまり、担保物権が別の価値に代わったとしても、物上代位性がおよぶことで債権の担保性を保ち、債権者を保護することにつながるのです。
2:質権の3つの種類
質権は目的物の種類により、以下の3つに分類されます。
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①動産質
動産質とは、動産(不動産以外のすべての物)に設定する質権のことです。質屋で目的物を預かって金銭を貸し付け、返済がなかったときに目的物を処分して債権を回収するケースがこれに該当します。
動産質は、動産競売にかけることで実行するのが一般的です。動産競売を行なうには、動産の所在地を管轄する地方裁判所の執行官室への申立てが必要となります。
ただし、動産のそもそもの価格が低い場合、競売にかかる費用をカバーできず、費用倒れになるケースもあります。
このように、動産競売をかけるのが合理的でないときには、「簡易な弁済充当」で債権を回収することが可能です。簡易な弁済充当とは、被担保債権の履行の代わりに、その動産を取得することで弁済に充てる方法のことです。
②不動産質
不動産質とは、土地や建物などの不動産に設定する質権のことです。
不動産質権を取得した債権者は、不動産を使用して利益を得ることができます。ただし、債権の利息に関しては、債務者に請求することは認められません。
不動産質権の存続期間は10年以内であり、期間終了時にさらに10年以内の期間で更新が可能です。
なお、不動産質は、担保不動産競売により実行されます。担保不動産競売とは、抵当権や根抵当権などの担保物権を設定した不動産を競売することです。
担保不動産競売は、住宅ローンの返済が困難になったときに、抵当権を設定した住宅の競売にも用いられます。
③権利質
権利質とは、財産権に設定される質権のことです。
財産権には、債権や株式、知的財産権、特許権などが挙げられます。ただし、所有権に関しては、権利質には含まれません。
また権利質を実行する際には、質権の目的である債権を直接取り立てることができます。
3:質権と抵当権の違い
抵当権とは、債務者が債務不履行になったときに、担保物権で弁済を受ける権利のことです。質権と似ていますが、抵当権は不動産にのみ設定される担保物権に該当します。
住宅ローンを組んで不動産を購入したものの、返済が困難になったときに、抵当権を設定した不動産の売却代金で債権を回収する仕組みです。
抵当権は質権と同じ約定担保物権ですが、質権と抵当権の大きな違いは「債務者が担保物権を占有できる」ことにあります。質権には留置的効力がおよびますが、抵当権には留置的効力は認められません。
つまり、住宅ローンを借入れた債務者は、滞りなく返済している限り、抵当権を設定した不動産に住み続けることが可能です。
不動産質の場合、債権者は不動産を利用して利益を得られます。
ただし、住宅ローンを融資した債権者(金融機関)が、担保物権を占有するのは物理的に不可能です。そのため、住宅ローンの担保物権においては、質権ではなく抵当権を設定することが一般的です。
4:質権が消滅するケースとは?
不動産や動産などに設定した質権は、一定の条件を満たすと消滅します。
質権が消滅する事由としては、以下のようなものが挙げられます。
質権消滅の事由 | 概要 |
被担保債権の弁済 |
質権で担保した被担保債権が、 すべて返済されたとき |
目的物の滅失 | 目的物が何らかの理由で滅失したとき |
目的物の混同 |
質権者が目的物を購入するなど、 混同が発生したとき |
質権の放棄 | 質権者が質権を放棄したとき |
質権者の消滅請求 |
質権者が目的物を管理する義務に違反し、 質権設定者が質権の消滅を請求したとき |
第三者による不動産取得に対する消滅請求 |
質権が設定された不動産を取得した第三者が、 各債権者に対して質権の消滅を請求したとき |
契約期間の満了 | 質権設定契約に基づく期間が満了したとき |
不動産質の代価弁済 |
質権が設定された不動産の所有権や 地上権を購入した第三者が、質権者の請求に基づき代価を弁済したとき |
被担保債権の消滅(付従性)、被担保債権の譲渡(随伴性)など、質権が消滅する事由は前述の「担保物権の性質」と関係しています。
5:住宅ローンにおける火災保険の質権設定とは?
住宅ローンでは不動産に抵当権を設定しますが、火災保険に質権を設定する方法もあります。本章では、火災保険に質権を設定するメリット・デメリットについて解説します。
①火災保険の質権設定とは?
火災保険の質権設定とは、住宅ローンを借入れる際、金融機関が火災保険に対して質権を設定することです。金融機関によっては、住宅ローンを借入れる条件として、火災保険の質権設定が必要になる場合があります。
金融機関は抵当権を実行する際、不動産を競売にかけてその売却代金で債権を回収します。しかし、抵当権を設定した不動産が火事で焼失してしまうと、競売にかけることが物理的にできなくなります。
住宅が火事で焼失した場合、火災保険の契約者である住宅ローンの契約者が保険金を受け取るのが一般的です。しかし、火災保険に質権を設定することで、保険金を金融機関が受け取ることができるようになります。
この場合、火災保険の保険証券は完済するまで金融機関が保管し、契約者は原本の写しを受け取ります。
火災保険の加入を義務とする金融機関では、以下のような条件が求められます。
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②火災保険に質権を設定するメリット・デメリット
火災保険に質権を設定する債務者側のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
メリット |
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デメリット |
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上記の表から、火災保険の質権設定は債務者にとって、メリットよりもデメリットが多いことがわかります。
火災が起きたときは金融機関の指示をもとに手続きを行なうため、保険の対応がスムーズにできる点は質権設定のメリットといえます。さらに、保険金から債権を回収したあとの余剰金は契約者に渡りますが、すべてのケースで余剰金が出るとは限りません。
火災保険に質権設定をすると、契約変更や解約などの際に、金融機関の同意を得る必要があります。火災保険料が高いと感じるケースも考えられるため、質権設定の前に契約内容を確認することが大切です。
また、火災保険は火事だけでなく、落雷などの自然災害や水漏れ、窃盗などの損害にも対応しています。このような場合でも火災保険を使うときは金融機関に連絡する必要があるうえ、保険金は一般的に金融機関から受け取ることになるため時間がかかります。
受け取る保険金を増やす目的で、別の火災保険に加入することはできますが、実際の損害額以上に保険金を受け取ることはできないため、保険料を払うだけ損になる可能性があるので注意が必要です。
③火災保険の質権設定が減っている要因
金融機関が火災保険の質権設定を求める理由は、火災などの際に債権の回収が困難になる恐れがあるからです。
債権が回収できない、具体的な理由は次のとおりです。
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つまり、抵当権を実行するより、火災保険に直接質権を設定して保険金を受け取った方が、素早く、確実に債権を回収することができるのです。
ただし、金融機関が火災保険の質権設定を求めるケースは、近年減少傾向にあります。その理由として考えられるのは、以下の3点でしょう。
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火災保険の質権を行使すると、住宅ローンの残高を早期に完済できます。債務者にとってはメリットがある反面、金融機関にとっては受け取れる利息が減るため、そのまま住宅ローンを貸していたほうが得です。
火災保険の保険期間は最長36年でしたが、2022年(令和4年)10月以降、最長5年に短縮されました。住宅ローンの返済中に何度も火災保険が満期になるため、金融機関としては、質権設定や補償内容の確認といった手間が増えてしまいます。
また、火災の原因が火災保険で定める免責事由に該当する場合、保険金が受け取れないケースもあります。具体的には、寝たばこや台所から目を離したことによる出火など、契約者に重大な過失がある場合です。
このような理由から、火災保険に質権設定をする必要性が薄れたことで、金融機関もあえて質権設定を求めなくなったと考えられます。
まとめ
質権は債権の債務不履行に備え、担保として動産や不動産、権利を占有し、優先的に債権の弁済を受けられる担保物権の一種です。不動産質は不動産で利益を得ることが認められますが、住宅ローンに対しては、抵当権を設定するのが一般的です。
住宅ローンを組む際、火災保険の質権設定を求められることもありますが、受け取れる利息の減少、火災保険の保険期間の短縮といった理由から、近年では火災保険に質権を設定するケースは減少傾向にあります。
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