債務不履行とは?3つの類型と5つのリスク[兵庫県伊丹市]
2024/07/22
こんにちは、アークエステートです!
本日のテーマは「債務不履行」について。
契約で取り決めた義務を果たさないことを、「債務不履行」といいます。
債務不履行をしてしまうと、債権者から履行を求められるほか、損害賠償の請求などの法的措置をとられる場合もあります。
債務不履行は金銭の貸借や不動産契約などさまざまな場面で起こる可能性があるため、具体的な内容やリスクを正しく知っておきましょう。
1:債務不履行とは
債務不履行とは、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき、または債務の履行が不可能であるとき」のことを指します(民法第415条)。
「債務」や「履行」は日常ではあまりなじみのない言葉ですが、法令では以下の用語と一緒によく使われるため、意味を理解しておくとよいでしょう。
債務:債権者に対して、一定の行為をなすべき義務 債務者:債務を負っている者 債権:財産権の一つで、特定の方(債務者)に対して一定の行為をす るよう請求できる権利 債権者:債権を有している者 履行:債務を果たすこと |
つまり債務不履行とは、「債務者が債権者に対し、契約によって生じた義務(債務)を果たさないこと」といえます。
2:債務不履行の3つの類型
債務不履行は、一般的に以下の3つの類型に分類されます。
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具体的な例とともに、1つずつ見ていきましょう。
①履行遅滞
履行遅滞とは、債務の履行が可能にも関わらず、正当な理由なく債務者が契約の期日までに債務を履行しないことです(民法第412条)。
履行遅滞の典型例として、金銭を借りて所定の期日までに返済をしない、あるいは返済が遅延した場合が挙げられます。
②履行不能
履行不能とは、債務者の責めに帰すべき事由によって、債務の履行が物理的または社会的に不可能になることです(民法第412条の2)。
例えば、オーダーメイド品や骨とう品など、1点物の商品を売却する契約をしたものの、引き渡し前に商品を破損してしまい、引き渡しができなくなった場合が挙げられます。また、1つの土地を二重に登録してしまったときのように、法律的に不可能になるケースも履行不能に当てはまる事例です。
なお、金銭の支払いについては原則として履行不能は認められず、履行遅滞になります。これは、世間にはお金が流通しており、どこからでも調達が可能であるため、借金を返済できないのは債務者の個人事情に過ぎないと解釈されるためです。
③不完全履行
不完全履行とは、契約した債務の履行はされたものの、その内容が「債務の本旨に従った完全な履行ではなかった」場合のことを指します(民法第415条)。
例えば、住宅の修理を修繕会社に頼んだ際に、作業は完了したものの、約束どおりの修繕がされていなかった場合などが挙げられます。契約した商品と異なる商品が納品されたり、数量が足りなかったりするケースも不完全履行の例です。
3:債務不履行によって生じる5つのリスク
次に、債務者の立場から見て、債務不履行になった場合に起こりうるリスクを紹介します。債務不履行によって生じるリスクは、主に以下の5つです。
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①債務を一括請求される
金銭の返済を滞納するなどして債務不履行(履行遅滞)の状態に陥ると、「期限の利益の喪失」となり、債権者から債務の一括請求を求められる可能性があります。
期限の利益とは、「債務者と債権者(銀行や貸金会社など)の間で約束された一定の期日までは、債務(借金返済、代金の支払いなど)を履行しなくてよい利益」のことです。
期限の利益の喪失は、民法第137条において以下のように規定されています。
(期限の利益の喪失)
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金銭の貸し借りの契約では、債務者の期限の利益喪失についての条項が盛り込まれている場合がほとんどです。そのため、債権者は債務不履行をした債務者に対し、期限の利益によって猶予していた債務の履行を一括で請求できます。
ただし、「履行不能」となった場合については、一括請求は物理的または社会的に不可能であり、債権者は債務の履行を請求できません(民法第412条の2)。そのため、契約の解除や損害賠償請求などの手段がとられることになります。
②強制執行がなされる
債務者が正当な理由なく債務不履行を続けていると、債権者から強制執行という法的手段をとられる場合があります(民法第414条)。
強制執行とは、債権者の申し立てにより、裁判所などの公権力が債務者の財産(預貯金や給与、不動産)を差し押さえるなどし、債権を強制的に回収する手続きです。強制執行は裁判所の命令によるものであり、債務者は拒否できません。
③債務の完全な履行を求められる
履行不能な場合を除き、債権者から追完請求権を行使される可能性があります。
追完請求権とは、商品の売買で引き渡しがなされた物の種類や品質、数量において、契約の内容に適合しないときに、買主が売主に対して、目的物の修補や代替物の引き渡し、または不足分の引き渡しによる履行の追完を請求できる権利です。2020年(令和2年)4月施行の改正民法において明文化されました(民法第562条)。
例えば、中古建物の売買契約において「雨漏りのしない建物」が売買対象であったにも関わらず、物件に雨漏りがあった場合は、買主は売主に対して雨漏りの修補請求ができます。
④損害賠償を請求される
債務不履行によって債権者に損害を負わせた場合は、債権者から損害賠償を請求される恐れがあります。債務不履行による損害賠償については、民法第415条において以下のように規定されています。
(債務不履行による損害賠償) 第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 |
債務不履行による損害賠償では、債務が履行されなかったために生じた損害のほか、債務が履行されなかったことにより失われた利益(逸失利益)も請求できる可能性があります。
《債務不履行による損害賠償請求が発生する要件事実》
債務不履行に基づく損害賠償請求が認められるには、以下の要件事実が必要です。
1 | 当事者間で契約を締結したこと | 下請けとしての業務や口約束ではなく、当事者間で契約が成立している必要がある。 | |
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商品(サービス)の全部または一部を納品(提供)しないなど、債務者が債務を履行しない状態にある。 | |
3 | 債務不履行により債権者に発生した損害やその金額 | 契約違反だけでなく、実際に損害が発生している必要がある。 | |
4 | 損害が債務者の債務不履行により発生していること(因果関係) | 発生した損害が、債務者の債務不履行に起因するものである必要がある。 |
3の「債務不履行により債権者に発生した損害やその金額」では、実際に損害が発生しているかがポイントです。例えば、不動産の売買契約を結んだにも関わらず、売主側のミスにより不動産の引き渡しが1ヵ月程度、遅れたとします。この際、買主に実際の損害がなければ、損害賠償は請求できません。一方で、その間にホテル暮らしを余儀なくされた場合は、1ヵ月分のホテル代を損害賠償請求できます。
また、4の「損害が債務者の債務不履行に発生していること(因果関係)」は、先に紹介した民法第415条にも明記されています。具体的には、自然災害などの不可抗力による債務不履行では、原則として損害賠償請求ができません。この場合、債務者に落ち度がないことの証明は債務者側で行なう必要があります。
《債務不履行による損害賠償請求権には消滅時効も》
債権者には、債務不履行に対し履行や損害賠償を請求する権利がありますが、請求できる期限が定められています(消滅時効)。
民法第166条で規定された債権等の消滅時効は、以下のとおりです。
(債権等の消滅時効)
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一例として、不動産の売買契約を結び、2023年(令和5年)1月1日を売買代金の支払日としたケースで考えてみましょう。
売主が売買代金の支払日を知っていたなら、5年後の2028年(令和10年)12月31日を過ぎると、時効により売買代金の請求権が消滅します。売主が売買代金の支払日を知らなかった場合には、10年後の2033年(令和15年)12月31日を過ぎると、時効を迎えることになります。
売買契約において支払日を知らないというケースはほぼないため「原則5年が経過すると権利が消滅する」と考えましょう。
⑤契約を解除される
債権者が相当な期間を定めて債務の履行を促したにも関わらず、債務者が債務を履行しなかった場合、契約を解除される可能性があります(民法第541条)。
ただし、債務のすべてが履行不能である場合や、債務者が履行を拒否する意思を明確に示した場合などは、債権者は催告することなく一方的に契約を解除できます(民法第542条)。
4:不動産契約において、債務不履行に陥るケース
最後に事例として、不動産契約における債務不履行のケースを紹介します。
①家賃を滞納(債務不履行)した場合
住まいなどの物件を借りる際には、賃貸借契約を締結します。賃貸借契約書には賃料や支払期日についても記載されており、1度でも滞納すると借主の債務不履行に該当するため注意が必要です。
ただし実務上では「信頼関係破壊の法理」が確立されており、債務不履行があっても信頼関係が破壊されるまでに至っていない場合は、契約の解除ができないとされています。
過去の判例では、目安として3ヵ月以上の滞納があると、貸主と借主の信頼関係が破壊されたとして、契約解除の請求が認められる傾向にあります。
また、賃料の滞納を続けると、貸主から法的措置(少額訴訟や民事訴訟)を起こされて強制退去となる場合があるほか、連帯保証人に迷惑をかけたり、賃貸契約者の信用情報に傷がついたりする恐れもあるため、注意が必要です。
②不動産の売買契約で債務不履行があった場合
不動産の売買契約を結んだのに、売主が不動産を引き渡さないような場合も、債務不履行に該当します。類型別の事例としては以下の3つが考えられます。
履行遅滞:期日までに不動産の引き渡しがない場合 履行不能:契約締結後に物件が火災で焼失するなどした場合 不完全履行:不動産の引き渡しはされたが、欠陥があるなど完全な形ではない場合 |
債務不履行の類型や契約の内容によっても異なりますが、債権者(買主)は債務者(売主)に対し、債務の履行の催告や売買契約の解除、損害賠償の請求などが行なえます。
ただし、履行不能のなかには、自然災害による建物の消滅など、売主の責任を問えないケースもあります。不可抗力により建物の引き渡しが不可能となった場合、買主は売買代金の支払いを拒むことが可能です(民法第536条)。
まとめ
債務不履行とは、「債務者が債権者に対し、契約で取り決めた義務(債務)を果たさないこと」をいい、分類として履行遅滞・履行不能・不完全履行の3つがあります。
債務不履行となった場合、債務者は債権者から債務の一括請求や完全な履行を求められるほか、強制執行や損害賠償の請求、契約解除がなされるリスクもあります。
不動産契約においても債務不履行に該当する事例があるため、債務者と債権者の双方が、契約内容についてしっかり確認しておく必要があるでしょう。
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